子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 いつの間にか、私の視界は涙で滲んでいた。


「あ、あはは。やだな」

 慌てて自分で涙を拭う。

 流されちゃいけない。
 ダメなら離婚だなんて、私はそんなふうに割り切れるほど大人じゃないし。

 竜神さんはきっと同情しているんだ。私の寂しい身の上を知って。

「私、帰りますね。なんか酔っちゃったみたいで」

 立ちあがろうとすると竜神さんが私の腕を掴んだ。

「俺はずっと見てた。ウォーターサーバーのメンテナンスをしながらな。楽しそうに鼻歌を歌いながら、備品を補充する姿も全部。同情なんかじゃないぞ?」

 竜神さん……。

「言っただろう。お前が不幸だとは思っていない。ただ俺を助けると思って協力してほしい」

 彼は、囁くように言う。

「お前しかいないんだ」

 私しか……?

 あの夜、竜神さんに助けてもらえなかったら私は今頃どうなっていたか。

 竜神さんの力になれるなら。


「お試しでも、いいんですね?」

「それでもいい」


 そっと腕を引かれて、私が落ちた先は、竜神さんの腕の中だった。

 でも、彼と目を合わせたらダメ。
 見たら好きになってしまう。家族の夢と重ねてしまう。

 だから横を向いて抵抗して。

 なのに、顎をすくわれて、見てしまった瞳の奥。
 竜神さんの燃えるような熱い瞳。

 ドキドキと胸は高鳴り、心は震えてる。

 抱きすくめられて肩の力が抜けて、波に飲み込まれそうになる。

 それでも私は、自分の意思で決めようと思う。なにがあっても竜神さんのせいにはしない。

 手を伸ばし、近づいてくる彼の頬を両手でつかむ。

「私から」

 そう言って彼の唇に唇を重ねた。



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