子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 どうしよう夢中になってしまったら。

 怖い怖い、気をつけなくちゃと反省しながら着替える。

 恋は盲目だ。人格を変えてしまう。
 憎悪に満ちたかつての親友の目を思い出し、溜め息をついた。

 自分もそうならないように気をつけないと。

 それに彼との結婚なんて、どう考えても現実的じゃない。

 まだ聞いていないが、彼の家族は間違いなくお金持ちだろう。私との結婚を許すとは思えないもの。

 そうなっても平気でいられるように、いつでも別れを選べる強さを持たなきゃ。
 子どもが欲しいのは本当だけれど、彼に夢中になっちゃいけない。つらいのは自分なんだもの。

 残念だなぁ。
 疾風さんがセレブじゃなくて、普通にウォーターさんのままたったらよかったのに。

 それならきっとなんの戸惑いもなくお付き合いできたのに……。



 信号待ちの交差点。
 深い溜め息とともに、ふと時計を見た。

 あれこれ思いあぐねていたせいで、いつもより遅くなっている。慌てて小走りでエントランスをくぐった。

「おはようございます」

 声をかけるとコーヒーを飲んでいた水咲先輩が振り返る。

「おはようー。ん?」

 不意に、水咲先輩はガラガラと椅子を引き摺りながら寄ってきた。

「な、なんですか」

「うーん。一皮剥けたっていうか、色気があるっていうか。ちょっと雰囲気が違うわよ」
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