子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~

 ギョッとして、危うくなんでわかるんですかと白状しそうになる。あぶない、あぶない。

「やだなぁ、気のせいですよ」

「もしかして遠距離の彼と、久しぶりに盛り上がったとか? ふふ。円花ちゃん本当に恋人いたのね」

 しまった!

 すっかり忘れていたが、水咲先輩にまで遠距離の恋人がいるという設定のままだ。

「それがですね――」
 今後を考え、遠距離恋人は嘘だと告白しようとしたとき、水咲先輩の視線が私を通り越して後ろに移る。

「おはようございます」

 ドクンと心臓が飛び跳ねる。

 この声は。

 疾風さんが出社したのだ。

 振り返ると目が合った彼は、先週と変わらぬ態度でにっこりと口角を上げる。

「おはようございます。桃井さん」

「あ、おはよう、ございます」

 普通にしていなきゃいけないのに、思わず声がうわずってしまう。

 首筋から熱が込み上げてきて、慌てて頬を手で包んだ。

 ああ、もうどうしよう。恥ずかしい。
 こんな調子で私、本気に大丈夫なの?

< 74 / 159 >

この作品をシェア

pagetop