子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 実践はできなくても、何度も何度も読めば身につくと信じたい。
 私も疾風さんのように美しい所作を身につけたいもの。


 マーカーで線を引き、付箋を貼り。夢中になって読み続けた。

 食事のマナーはなんとかなりそうだ。茶道や華道のような習い事は実際に体で習得しないと無理そう。一流のものに精通するにも本物を見て触っていかなと。

 うーん。やっぱりそう簡単にはいかないわね。

 大きく伸びをしてひと息ついたとき玄関が開く音がした。

 疾風さんが帰ってきたらしい。

 時計を見れば、いつの間にか夜は更け十時を回っていた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 疾風さんはいつものように、私の頬にチュッとキスをする。

「あまり飲まなかったの?」

 顔色が変わらないのはいつもだけれど、お酒の匂いがしない。

「ああ。課長はアルコールに弱いからな」

「そうなのね。知らなかった」

「今日はちょっと混み入った話だったんでね。藤原専務も一緒だったんだ」

「へえ」と答えると彼は、疑わしげに目を細めて私の顔を覗き込む。

「一緒に行きたかったか?」

< 82 / 159 >

この作品をシェア

pagetop