泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
紗良が海斗を連れて帰宅すると、すぐ後に杏介もコンビニの袋を下げてやってきた。
「適当に買ってきたからとりあえず食べよう」
ガサガサと袋からおにぎりや惣菜パンや菓子パンを取り出せば、海斗がひょいっと覗きにくる。
「なにがあるー?」
「ツナマヨと鮭と明太子。海斗は明太子は食べれないかな?あとはソーセージパンとクリームパンと……」
「あー!かいと、ツナマヨ!ツナマヨすきなんだよねー」
「こら海斗!ありがとうといただきますでしょ」
「せんせー、ありがとう。いただきまーす」
海斗は器用におにぎりの包みを取り外し、大口を開けて食べ始めた。
「ほら、紗良も。何食べる?」
「あ、うん……」
朝食は食べていないし杏介が買ってきてくれたたくさんの食べ物を前にしても、紗良はまったくお腹がすかなかった。
そんなことよりも母のことを想うだけで胸が苦しくなる。
ため息が出そうになるのを堪えていると、杏介の大きな手が頭の上に降ってくる。
「落ち込むのはわかるよ。だけどちゃんと食べておかないと紗良の体がもたない。今日はまだ始まったばかりだろう?しっかり体力つけないと」
「うん、わかってるけど……」
頭では理解しているけど、どうにも食べる気が起きない。
どれが食べたいのかもわからない。
「紗良が食べないなら、今ここでキスする。海斗の目の前で」
「……はっ?えっ?何言って……」
「じーーー」
杏介の突拍子もない提案に動揺したのも束の間、黙々とおにぎりを頬張っていた海斗が期待の眼差しで紗良を見ていたため、紗良の頬は一気に染まる。