泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
「き、杏介さんっ!冗談はやめてよ!海斗も!何?何なのよっ!」
「せんせー、さらねえちゃんおこるとこわいんだよ。しらなかった?」
「うーん、知ってた。でも海斗が怒らせたんだろ?」
「えー?せんせーのせいでしょ?」
杏介と海斗はヒソヒソと責任を押しつけ合う。
完全にからかわれた紗良はムスッとしながら明太子おにぎりを掴むと綺麗に包装を解いた。
「まったくもう、これだから男子は」
などとぶつくさ言いながらおにぎりを一口かじる。
こんな時に、と思わなくはないが、二人のおかげでずっと張り詰めていた緊張が緩んで急にお腹がすいたような気がした。
まだこれから病院に戻らなくてはいけないのだ。
杏介の言うとおり、しっかり食べておかないと今日を乗り切れない気がする。
紗良がもぐもぐ食べていると、
「さらねえちゃんげんきになったねぇ」
「元気な紗良が一番いいよな」
と男子たちはまたコソコソと笑ったのだった。
早々に食べ終わった海斗は、すぐに杏介にまとわりつく。
海斗にとって祖母が入院したことは大事ではなく、なんとなく非日常的なことが起こったという感覚にすぎない。
朝早くに病院まで連れ出されたが今はもう家に戻ってきているため、海斗の中ではいつもの日常だ。
「せんせー、あそぼ」
「こら、海斗」
紗良が咎めるが、杏介はそれを手で制す。
「いいからいいから。俺が海斗と遊んでいるから、紗良はお母さんの入院の準備とか、やらなきゃいけないことを優先させて」
そんな風に言ってくれるので、紗良はありがたく従った。