泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
病院では母の病状や今後の説明を受け、たくさんの書類に目を通しながら手続きを済ませる。

ICUにいる母にはたくさんの管が付いていて、数年前の光景を思い出させた。
初めて脳梗塞で倒れたときも同じくここに入院した。
あのとき紗良はまだ学生で、ICUで作業する医療者の声と無機質な機械音を聞きながら母の様子を伺っていた。

これからどうなるのだろうと思いつつも、その時は姉がいたために姉に頼りっきりだったと今さらながらに思い出す。

一人で抱えるのはつらい。
すぐに不安や重圧で押しつぶされそうになる。

けれどすぐに脳裏に浮かぶ顔――。

杏介の存在は絶対的で紗良は幾重にも助けられていた。
今朝だって誰かに縋りたくて無意識に杏介に電話をかけていたくらいだ。

それほどまでに紗良の中で杏介に対する信頼感は大きいことに気づかされる。
今こうして一人でテキパキと手続きをこなすことができるのも、杏介が海斗を見ていてくれるから。
杏介が紗良を気遣ってくれるからに他ならない。

いつだって紗良に優しく、いつだって紗良の味方でいてくれる杏介。

(もしもまだ、杏介さんの気持ちが変わってないのなら――)

変わっていないのなら自分はどうしたらいいのだろうか。どうしたいのだろうか。
このままズルズルと都合の良い関係でいて貰うことの方がよっぽど失礼ではないか。

いつまでもそんな関係でいてはいけないのだと、こんなときに限って実感してしまう。
いや、こんなときだからこそ、だろうか。
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