泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
アルバイト先にもしばらく休むことを伝え、お昼時もだいぶ過ぎた頃、紗良はようやく自宅へ戻った。
「ただいまー」
玄関を開けると奥から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
リビングに足を踏み入れれば、散乱した折り紙や絵本、そして杏介の膝に座ってスマホゲームをしている海斗がいた。
「ああ、紗良、おかえり」
「ただいま。おかげで手続きとかいろいろと終わったよ。杏介さん、大変だったよね?」
「あ、ごめん。部屋が散らかりすぎてるな。あと、海斗にスマホゲームさせるのはよくなかったかも」
「ううん。全然いいの。すごく助かってるから。海斗、よかったね」
うん!と元気のいい返事が返ってくるも海斗はゲームに夢中になったまま杏介の膝の上でご機嫌だ。
「紗良、バイトは休んだ?」
「うん、さすがに行けないから。しばらくお休みさせてもらうことにしたの」
「そうか。それがいいな」
「あ、二人ともお昼はどうしたの?」
「残ってたおにぎりとかパンを食べたよ。紗良は?ちゃんと食べた?」
「うん、病院のカフェで少し……」
本当はアイスコーヒーを一杯飲んだだけなのだが。
それを言えば杏介は心配するに決まっているので、食べたことにしておく。
朝は杏介と海斗が気持ちを盛り上げてくれたため食べることができたが、やはり一人での食事は喉を通らなかった。
「よかったら夕飯食べてって。それくらいしかお礼できないんだけど……」
「ありがとう。でも今から仕事だからさ。また今度いただくよ」
「えっ、お仕事だったの?ごめんなさい、こんなに長くいてもらって」
「いいんだ。気にするなよ。今から仕事だけど、何かあればすぐに電話してくれて構わないから。夜中でもいつでも。まあ、何もなくてもかけてくれていいんだけど。いつでも紗良の声聞きたいし」
「ありがとう、杏介さん」
思わず潤んでしまった目を隠すために紗良は少し俯く。
そんな紗良の頭を杏介は優しく撫でた。
「海斗も、また来るからな」
「わかったー。こんどまたゲームやらせてね」
「紗良姉ちゃんの言うこと聞いていい子にしてたらな」
「わかった。いいこにする」
海斗は親指を突き立てキリリと頷く。
後ろ髪を引かれながらも、杏介は仕事に向かった。
こんなときこそ仕事を休んでずっと紗良の元にいたいと思ったが、シフト勤務でなおかつ生徒を抱える身としては早番と遅番を変更してもらうので精一杯だった。