泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
翌日、杏介は一人で病院を訪れていた。

「杏介くんにまで迷惑かけちゃってごめんねぇ」

一般病棟に移った紗良の母は相変わらず元気でニコニコと笑う。
一時失語症があったとは思えないくらいに回復していた。

「お母さんには早く元気になってもらわないと」

「これからリハビリも始まるのよ。見てよ、まだ全然左側が動かないの。わたし、呂律も回ってるかしら?」

「ええ、ちゃんと聞き取れますよ」

杏介は持ってきたタオルやパジャマを棚に片づける。
洗濯物としてまとめられていたビニール袋を持ってきたバックに代わりに入れた。
こうやって親のために何かをすることは初めてな気がして杏介は少し緊張した。
もちろん本当の親ではないけれど、それでも自分の母親と同世代の紗良の母の世話をすることはなんだか感慨深いものがある。

「ねえ、 杏介くんから見て紗良って無理してない?」

「無理してますね」

「やっぱり? あの子意外と頑張り屋さんなのよ。一人で何でもやろうとしちゃって」

「そう思います。僕も紗良さんの力になりたいんですけど、全然頼ってもらえなくて」

杏介は頷く。
今日ここに杏介が来ることになったのも、遠慮した紗良を遮って杏介が強引に決めたことなのだ。
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