泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
杏介が仕事を終えロッカールームで身支度を調えていると、着信を知らせるランプが点灯しているのに気づいた。見れば、紗良から留守電が入っている。
聞いてみればしばらく無音で、間違い電話かはたまた海斗がいたずらでもしたのかと思った。
だが、メッセージが終わる直前、わずかに海斗が「さらねえちゃん」と呼んだ声が聞こえた。
それも、慌てた様子で。
杏介はすぐに紗良に電話をかけた。
だがいくらコールしても出ない。
嫌な予感しかせず、杏介は眉間にしわを寄せる。
「杏介~飯でも食ってこうぜ……って、どした?怖い顔して」
「ごめん、また今度」
バタンとロッカーを閉めるとカバンを引っ掴んで慌てて外へ出る。
「あっ、先輩、お疲れ様で……す?」
リカが声をかけるも、杏介は目もくれず飛び出していった。
職場から石原宅へは車で十分ほどの距離だが、今日はずいぶんと遠く感じる。
何事もなければいいのだが、と思いながらも気持ちばかりが焦って仕方がない。
紗良に何かあった?
それとも海斗に?
いや、母親か?
自分の思い過ごしならそれに越したことはない。
とにかく嫌な予感が当たらなければそれでよかった。