泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
海斗の母親――紗良が、滝本杏介の行きつけのラーメン店の店員だと判明してからというもの、二人は店で顔を合わせるたびに一言二言しゃべるようになった。

スポーツクラブで働く杏介は、たいてい土曜の仕事終わりに仕事場近くのラーメン店で食事をして帰ることがルーティンになっている。
ほどよく汗をかいたあとのラーメンは格別に旨い。疲れた体に塩分を補給してくれるし、炭水化物が疲労を回復させてくれる。
更にこの店は品がよく、なかなかに居心地が良いため杏介のお気に入りだ。

杏介が忘れた文庫本を届けてもらったこととプール教室での出来事のおかげで、紗良とも顔見知りから少しレベルアップしたように思う。

「ここのラーメン、ほんとやみつになるんですよ」

「ありがとうございます」

そんな当たり障りのない会話から始まった二人の雑談。
会話を重ねるうちに、プライベートの少し突っ込んだ話題にも触れる機会が訪れた。

「先生は遅くまで働いてるんですね?」

「ええ、僕はシフト制なので。大抵土日の遅番は独り身がシフト入れられちゃうんですよねー。あはは」

「そうなんですか。私も土日の夜だけここで働いているので。……だからよく会うんですね」

「へぇー」

壁には常にアルバイト募集の貼り紙がしてある。

彼女はアルバイトなんだろうか?
この時間、海斗は家で父親と過ごしている?
< 12 / 145 >

この作品をシェア

pagetop