泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
母の入院が長いことと杏介の勧めもあり、紗良はラーメン店でのアルバイトを辞めることに決めた。
約二年間お世話になった店は店長始め従業員がとても優しく、恵まれた環境で働かせてもらっていたと改めて感じる。

杏介が海斗を見ていてくれるというので、紗良は小分けのお菓子を持ってバイト先へ挨拶に出掛けた。

「せんせー、なにしてあそぶ?」

「そうだなぁ。何しようなぁ?」

「オレねー、ほいくえんであやとりおぼえた」

「あやとりなんて子供の頃やったきりだな」

海斗は最近一人称が「海斗」から「オレ」になりつつある。
身長も伸びたしひらがなも読めるようになった。
順調に成長していく海斗。
もう今となっては海斗のことを他人の子とは思えないほどに杏介の中で愛しさが膨らんでいる。
紗良のことも海斗のことも大事にしたいという気持ちは変わらない。

「なあ海斗、先生と一緒に住んでもいい?」

「え、どうして?」

「紗良姉ちゃんと結婚したいんだ」

海斗はきょとんとして首をかしげる。

「それって、せんせーがオレのおとーさんになるってこと?」

「ん……、まあ、そういうことだな」

改めて言われると心臓がドキリとする。
杏介にその気はあるが、海斗が受け入れてくれなければ引かなくてはいけないのだ。
それが紗良との約束だから。
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