泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
ガチャリと玄関が開く音が聞こえ、海斗ははっと顔を上げた。

「さらねえちゃんだ!」

「ただいまぁ。杏介さんありがとう、助かったよ。おかげできちんと挨拶することができてよかった」

「今度みんなで食べに行くか、ラーメン」

「うん、そうしよう。店長さんもいつでも食べに来てって言ってたし」

紗良と杏介が話している間、海斗はソワソワと紗良のまわりをうろちょろする。
ようやく紗良と目が合うと、待ってましたとばかりに両手を挙げた。

「さらねえちゃん、いいことおしえてあげよっか?」

「えー、なになに?」

「なんと!せんせーがおとーさんになります!」

「んっ?」

よくわからず紗良は目をぱちくりさせ、海斗から杏介へ視線を移動させる。
杏介は咳払いひとつ、姿勢を正すと紗良をまっすぐに見つめた。

「というわけで、海斗には承諾もらったから、俺と結婚してください」

「えっ?うそ?いいの、海斗?」

「いいよー」

海斗のなんともあっさりな返事に紗良は拍子抜けしてしまい思考がついていかない。
杏介を見やれば柔らかく笑う。

「紗良、返事はないの?」

「あ、えと、お、お願いします」

変に照れくさくなり紗良は頬をピンクに染めた。
そんな紗良も可愛いなと杏介は微笑む。

「じー」

「……海斗、なに期待の眼差しで見てるんだ」

「チューするかとおもったから」

海斗はニヨニヨと悪い笑みを浮かべる。

「まったく、マセてるなあ」

「ほんとに、どこで覚えてくるのよそういうことを」

紗良と杏介は呆れながらも、ふふっと笑いあった。
本当は海斗の言うとおりキスをしたい衝動に駆られまくっていたが、大人としてわきまえたことは内緒だ。

「今日もおばーちゃんとこいくの?」

「行くよ」

「じゃあ、おばーちゃんにもおしえよーっと」

海斗は上機嫌でウキウキと準備をする。
紗良は何だか夢を見ているような気持ちになってドキドキと落ち着かない。それはやがてじわりじわりと実感に変わり、胸が熱くなった。
杏介と一緒になれることがこんなにも喜ばしいものだとは思いもよらなかった。
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