泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
和室の居間に通され、杏介の父と母の対面に座った。紗良の横には海斗がちょこんと座る。

「紹介します。お付き合いしている石原紗良さんと息子の海斗くん。俺たち結婚しようと思って今日は挨拶に来ました」

「はじめまして。石原紗良と申します。ほら海斗、ご挨拶」

「いしはらかいとです。六さいです」

ピンと張りつめていた空気が海斗によって少しだけ緩む。
海斗は自分が上手く挨拶できたことにドヤ顔で紗良を見る。目が合えば「ちゃんとごあいさつできたー」と、これまた気の緩むようなことを口走るので紗良は慌てて海斗の口を手で押さえた。

「……杏介、いいのか?最初から子どもがいることに、お前は上手くやれるのか?」

杏介の父が表情変えず、淡々と厳しい言葉を投げかける。緩んだ緊張がまた元に戻った。
それは杏介と杏介の新しい母が上手く関係をつくれなかったことを意味していて、杏介だけでなく母も、そして紗良も唇を噛みしめる思いになった。

「いや申し訳ない。紗良さん、あなたを責めているわけではないから勘違いしないでほしい。これは我が家の問題でね……」

「俺は上手くやれる。ちゃんと海斗を育てるよ。それも含めて結婚したいと思ったから……」

思わず反論する杏介だったが、紗良に袖を引っ張られてそちらを見る。

「杏介さん、意地を張らないで。本当はお母さんに伝えたいことがあるんだよね?」

「……紗良」

「お父様お母様、杏介さんはいつも海斗によくしてくれて、海斗が了承しなければ結婚はしないとちゃんと考えてくださいました。とても優しくて思い遣りがあって、尊敬できる方です。杏介さんの優しさはきっとお父様とお母様からたくさん愛情を注いでもらったからだと思います。最初から子どもがいることで杏介さんの負担になることは間違いないのですが、助け合って生きていきたいと思います。どうか結婚をお許しください」

紗良が頭を下げると海斗もそれに倣って頭を下げる。教えたわけではないけれど、そうするべきなのだと海斗も感じたのだ。
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