泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~


無事に親への挨拶も済み、二人は結婚に向けて歩き出した。
海斗のこと、紗良の母親のこと、お互いの仕事のこと、考える事は山ほどある。
けれどひとつも大変だとは思わなかった。
この先に待っている新しい生活に思いを馳せながら、日々できることをこなしている。

季節は秋から冬に移り変わるところ。
延びていた母の入院生活もようやく終わり、紗良たちはアパートに引っ越していた。
それは母の老後悠々自適生活のためのアパートではなく、紗良たちの一時的な住居だ。

紗良と杏介は悩みに悩んだ末、紗良の実家を建て替えて二世帯住宅として住むことを母に提案したのだ。
母は渋ったものの、左手足の回復が思ったより上手くいかず、近くに住んだ方が安心だと説得されて了承した。
海斗は家が新しくなることと、家が出来たら杏介と一緒に住めることを喜んで心待ちにしている。

いつものように海斗をプールに送り出して、ママ友の弓香と一緒に観覧席に座る。
と、弓香が声を潜めて紗良に迫る。

「ちょっと紗良ちゃん、滝本先生と結婚するってほんと?」

「えっ!弓香さん、なぜそれを……」

ドキリとした紗良は思わず目が泳ぐ。

「海ちゃんが保育園で言いふらしてたみたいよ。うちの子が聞いたって。もー、いつの間にそんなことになってたの?」

「いや、いろいろあって。っていうか、ちゃんと弓香さんには伝えるつもりでいたんだけど、まさか海斗から伝わるとは……」

「やだもう、馴れ初めとか聞きたい聞きたい!」

「お、落ち着いて弓香さんっ!さすがにここでは話せないし……。今度お茶したときにでも!ねっ?」

「絶対よ。約束だからね!」

こんなプール教室に通う子どもの親たちがひしめく観覧席で、まさかガラス越しのプールにいる杏介と結婚する、という話題は避けたい。
紗良は冷や汗をかきながら弓香を落ち着ける。
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