泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
「ああ、あとさ……」
「うん?」
口を開いた依美は躊躇いながら一旦口を閉じる。
紗良は首を傾げながら抱いていた赤ちゃんを依美に返すと、依美は赤ちゃんを大事そうに抱きしめた。
そして今にも泣き出しそうな顔で紗良を見る。
言いづらそうにしていたが、やがて重い口を開いた。
「私、紗良ちゃんに謝りたくて……」
「えっ?何かあったっけ?」
「うん……。前に……結構前のことなんだけど、紗良ちゃんに対して、自己犠牲に酔ってるなんて言ってごめん。子供ができてわかった。何より大事だよね。私、あのとき無神経だった」
本当にごめん、と依美は瞳を潤ませた。
紗良はつい最近も身近でこんなことがあったようなと記憶を辿る。
――紗良に出会って海斗と接したり紗良のお母さんと話をして、ようやく気づけたというか……
(あ、これって杏介さんと一緒だ……)
経験を経て、その立場になってみてようやくわかること。
紗良が海斗のことを一番に考えていた気持ち。
それを依美は自身が妊娠することによって得たのだった。