泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
紗良は小さく首を横に振る。
「ううん。私の方こそ……。私、あのとき依美ちゃんにそう言ってもらわなかったら自分の本当の気持ちを押し殺したままだった」
あの時は目先なことしか考えていなかった。
海斗を立派に育てなければという使命感のみが紗良を支配していた。
依美の言葉は紗良を深く傷つかせたけれど、同時に自分のことを考え直すきっかけにもなった。
「あのね、実は私、結婚するの」
「いい人と出会ったんだ?」
「うん、プール教室の先生」
「えっ?もしかしてあの映画とか一緒に行ってたプールの先生ってこと?」
「うん。だからね、依美ちゃんは私にきっかけをくれたんだ。自分の幸せを考えるきっかけ。本当に、ありがとね」
「紗良ちゃぁ~ん」
ズビズビと泣き出す依美に紗良も思わずほろりとする。
依美にハンカチを差し出せば「うええ」と更に泣き出した。
「依美ちゃんって泣き虫だったんだ?」
「違うの。なんかね、子ども産むと涙もろくなっちゃって」
「そうなんだ?」
コクコクと依美は頷く。
その経験は紗良にはないもので、何だか不思議に思う。
けれどきっと依美もそんな感じだったのだろう。
「でも、本当におめでとう。自分のことのように嬉しい」
「うん、ありがとう。依美ちゃんも、結婚と出産おめでとう」
「ありがとう~」
紗良と依美はふふっと微笑む。
人はみな、違うのだ。
だからこうやって、意見が違えたりある日突然わかり合えたりするのだろう。