泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~


年も明け、紗良と杏介は婚姻届を提出するため役所を訪れていた。

ドキドキとしながら書いた婚姻届は、あまりの緊張に二枚ほど書き損じてしまった。
年末には再び杏介の実家を訪れ、証人欄に名前を記入してもらった。
杏介の本籍は実家にあるため、そちらで戸籍謄本も取った。

着々と準備が進むごとに結婚するんだという実感がじわじわとわいてくる。
そして今日という日を迎えた。

「おめでとうございます」

窓口に提出すると職員がにこやかに対応してくれる。
不備がないかなど確認し、滞りなく受理された。
案外あっけなく終わり紗良と杏介は時間を持て余したため、以前訪れたことのある公園まで足をのばした。

まだ北風冷たく春になるにはもうしばらく先。
杏介は紗良の手を握り、自分のコートのポケットへ入れた。
吐く息は白いけれど、くっついていれば寒さなど感じないくらい手のひらからお互いのあたたかさを感じる。

小高い丘の上にある展望台までのぼるとちょうど飛行機が通り抜けていった。
以前来たときはまわりの木々には緑の葉が生い茂っていて葉々を揺らしたが、今は冬のため枝がむき出しの状態だ。ところどころライトが付けてあることから、夜にはちょっとしたイルミネーションが見られるのだろう。

「そういえば、本当に結婚式はしなくていいの?」

「うん、だって家も建てるし海斗の卒園式もあるし、やってる暇なんてないよ。お金もないし」

「紗良がいいならそれでいいけど……」

杏介は顎に手を当ててうむむと考え込む。
あまりにも悩んだ表情をするため、紗良は自分の考えばかり押しつけていたのかもと思い焦る。

「もしかして杏介さん、結婚式したかった?」

「ああ、いや、そうじゃなくて、紗良のウェディングドレス姿を見てみたいと思っただけで。だって絶対可愛いし」

「ええっ?そんなこと言ったら、杏介さんのタキシード姿だって絶対かっこいいよ」

お互いにその姿を想像してふふっと笑う。
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