泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
「えーっと、ここにお父さんって書いてあるじゃん。滝本先生はお父さんじゃないでしょ」
「えー、あげたいあげたい。かいと、がんばってかいたもん。あげるもん。こんどのプールきょうしつにもってくの」
「いやいやいや、濡れちゃうし」
「わーたーすー」
「ダメだって」
「ヤダヤダ」
言い合いをしていると、だんだん海斗の顔が曇ってくる。
そしてついに不機嫌な顔でその場を動かなくなった。
「ちょっと海斗、帰るよ」
「やだっ」
「置いてくよ」
「やだっ」
「保育園に泊まる?」
「やだっ」
「もうっ、どうしたいのよっ」
「だってたきもとせんせーにわたしてくれないんでしょ」
「だって渡せないじゃない」
「やだっ」
テコでも動かない海斗と譲らない紗良。
だけど先に根負けしたのは紗良だった。
「あーもうっ、じゃあ今度聞いてみるから。それでいいでしょ?」
「……いい」
「……帰ろ?」
「かえる」
ようやく靴を履いてくれた海斗と手を繋ぎ、駐車場へと向かう。
(ああ、変なことを引き受けてしまった。寝たら忘れてくれないかしら)
一気に疲れてしまった紗良は、どんよりとした気分のまま家路についた。