泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
「お待たせしてすみません」

「いえ、大丈夫ですよ。それでお願いと言うのは……?」

「はい、あの……」

紗良はしばし目を泳がせた後、杏介をぐっと見つめる。
身長差のせいで上目遣いに見つめられた杏介は、図らずも心臓がドキリと跳ねた。

紗良の艶やかな唇が小さく開かれる。

「……海斗が、どうしても先生に渡したいものがあって」

「渡したいもの?」

「はい、保育園で描いた絵なんですけど……」

紗良は再び口ごもってしまう。
とんでもなく言いづらいし、本来ならこんなことを杏介に頼むことではないのかもしれないと若干後悔もしつつ、でももう後戻りもできない。

杏介は予想と違っていて内心安堵していた。プール教室の指導内容に意見されることもあるとわかってはいるが、実際にそういう場面に遭遇するとやはり気分はよくないからだ。

だからほんの少しだけ持っていた警戒心を緩めて、軽く頷く。

「そうなんですね、ありがとうございます」

「あの、でも、……お父さんいつもありがとうって書いてあるんです」

「えっ?」

緩めた警戒心のせいで、予想だにしない紗良の言葉にしばし言葉を失う。
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