泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
チラリと見える紗良のスケジュール表には予定がびっしりと書き込まれている。
何かはわからないが、なかなかに忙しそうだ。
「この日は海斗の歯医者さんがあるし……」などと呟いているから、きっと海斗絡みの予定ばかりなのだろう。
短い付き合いだが、なんとなく紗良の性格は分かってきている。
彼女はいつも真面目なのだ。
だけど可愛らしい部分も多々あって――。
「先生、火曜日の夜はいかがですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
肯定すればすぐに嬉しそうな表情を浮かべる。
柔らかくて可愛らしい微笑みと声色。
杏介はぐっと息を飲む。
本当はプール教室に通う親に個人的な連絡先を教えるべきではないのだが、だけどこれも海斗のためと杏介は言い訳をして自然な感じを装い言った。
「念のため連絡先を交換してもいいですか?」
「あ、はい、そうですね」
紗良も特に気にもせず、二人連絡先を交換する。
スマホの画面に表示された名前。
(滝本杏介さんって言うんだ……)
(石原紗良さん、か…)
お互い妙に照れくさく、でも嬉しいような気持ちになり、顔を見合わせふふっと控えめに笑った。