泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
人気の施設とだけあってなかなかに混んでいるし、駐車場から入口までも少し距離がある。
荷物を持って海斗の手を引けば、杏介がするりと紗良の腕から荷物を抜き取った。

「あっ、大丈夫ですよ、私持てます」

「人が多いから、石原さんは海斗くんを見てあげてください」

そう言われては杏介の言葉に甘えるしかなくなる。
紗良は海斗の手を握り直し、「ありがとうございます」と伝えれば、杏介はふっと小さく笑みで返す。

その柔らかで優しい表情はプール教室のときにさえ見たことがなく、紗良の胸をドキリとさせるには十分すぎるほどの破壊力があった。

(……さすが推しメン。良いもの見させてもらったわ)

などと余計なことを考えているうちに入口まで辿り着く。

「海斗くんは僕が着替えさせるので、着替えたらあっちの入口で待ち合わせしましょう」

「あ、はい」

杏介は海斗の荷物を持つと、海斗と手を繋ぎ手際よく男子更衣室へ入っていった。

紗良も慌てて女子更衣室へ入る。
一人の更衣室は広々と感じられて、子供がいない身軽さを久しぶりに味わう気がした。

途中で呼ばれることもなく、ただ自分の着替えをすればいいだけ。
ほんの二年前まではこれが当たり前だったというのに、今やすっかり海斗に合わせた生活になっていることを実感させられた。
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