泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
キッズプールは屋内施設だ。
まだよちよち歩きの子供でも楽しめるような噴水シャワーや浅いプール、角度の緩いスライダーやキッズ向けスライダーもある。
「かいと、あれやる!」
目をキラキラと輝かせた海斗はスライダーを気に入り、何度も何度も滑っては大笑いをする。
「もっかい、いってくる」
滑り降りた先で待っている紗良と杏介に元気よく伝えると、また一人で階段をのぼっていく。
「海斗、走らないでよー」
紗良が声をかけるが、聞いているのか聞いていないのか、そのスピードは落ちることを知らない。
「ずいぶん気に入ったみたいですね」
「こんなに喜ぶとは思いませんでした」
「誘った甲斐がありますよ」
くっと微笑む杏介に、紗良は感謝の気持ちでいっぱいになった。
杏介がいなかったら間違いなくここには来ていなかった。
例えチケットだけもらっても、紗良一人で海斗を連れてプールに来るなんてことはできなかっただろう。
「さらねえちゃん、つぎはあそこにいこー!」
「ちょっと海斗待って!……きゃっ!」
突然走り出す海斗を慌てて追いかける。
が、紗良は足を滑らせてバランスを崩した。
目の前の視界がぐるんと動き立て直すことは不可能だ。
けれど予想よりも軽い衝撃と共に、紗良の視界はすぐに止まった。
「危なっ!大丈夫ですか?」
「……!す、すみません!」
斜め上を見上げれば、紗良の右腕を絡めるようにして受け止めている杏介の驚いた顔がある。
「「……!!」」
視線がぶつかれば、お互いあまりの近さに言葉を飲み込んだ。
((ち、近いっ!))
動揺してパッと離れれば、急激に心臓がドッドッと音を立てて暴れ出した。
今まで意識していなかったのに、どういうわけか頬に熱が集まってくるようだ。
(杏介さん、たくましすぎるんですけど!)
(紗良さん、華奢すぎるんですけど!)
お互いどぎまぎしながら、
「もー、海斗ったらすぐにどっか行っちゃうんだから」
「本当に」
と、ぎこちなく笑うのだった。