泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
イルカショーの会場はすでにたくさんの客で埋め尽くされていた。
空いている席を探しながらウロウロすると、海斗が「こっち」と手を引っ張る。
「いちばんまえ、あいてる。ここにしよ」
不自然に空く一番前の席に首を傾げるも、海斗は一人走って行ってしまう。
慌てて追いかければ、近くにいたスタッフに声をかけられた。
「こちらの席は水がかかりますがよろしいですか?」
「えっ、水?」
「はい、このレインコートを着用ください」
「海斗、ここ水がかかるんだって」
「やったー!」
「いや、そうじゃないでしょ……。杏介さん、どうしよう」
「俺はそれで構わないよ。むしろ楽しそうだよね」
「……じゃあ」
スタッフから簡易的なレインコートを受け取り、三人は着用してから海斗を真ん中にして座る。
そうこうしているうちにショーが始まり、イルカたちが手前のプールで優雅に泳ぎだした。
『さあ、お客さんにご挨拶です』
司会のアナウンスと共にイルカたちが一斉に目の前に集まる。
そして尾を思い切り振り、水しぶきが客席へと降り注いだ。
「きゃっ」
「おおっ」
「あーははははは」
思ったよりも多い水しぶきに、紗良と杏介はフードを被る。
だが海斗はツボにはまったのか、大笑いをしながら頭から水を被った。
それがまた面白いのか、レインコートの意味などまったくないくらいにびしょ濡れになってしまった。
「おもしろーい!イルカさーん!」
客席から立ち上がらんばかりの海斗は終始目をキラキラさせてイルカショーに釘付けだ。
目の前のプールで大ジャンプを繰り広げるイルカたち。
次第に紗良も海斗の服が濡れることなど忘れてしまうほどに夢中になっていた。