泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
希望通りイルカのTシャツを購入し着替えた海斗は、ご機嫌に水族館を見て回っていた。

紗良と杏介と手を繋いで歩いていたかと思えば、突然手を振りほどいてお目当ての魚のところまで走り出したりと目が離せない。
それでも杏介が一緒に見てくれているという安心感が紗良に心の余裕を与えてくれる。
おかげで紗良自身も純粋に水族館を楽しむことができた。

「かいとはガチャガチャしたい」

出口直前にあるショップの前には水族館限定のガチャガチャが何台も設置されていて子どもの目にはどれも魅力的に映った。
案の定、海斗はそこからピクリとも動かなくなったし、やりたいやりたいと癇癪でも起こしそうな勢いだ。

「やらないよ。 海斗はイルカのTシャツ買ったじゃない」

「やだやだ。ほしいもん。このイルカさんがほしい」

「イルカさんが出るかわからないのよ」

「イルカさんがでるまでやる」

「やりません」

「海斗、イルカがほしいならお店にもいろいろ売ってるよ。それと、おばあちゃんにお土産買わなくていいのか?海斗が選んだら喜ぶと思うよ」

「おばーちゃんにおみやげ。かいとがえらぶ」

杏介が上手くガチャガチャから海斗を遠ざけ、三人はショップへ入った。
たくさんの商品を前に、またしても海斗は目をキラキラさせる。
さんざん悩んだあげく、海斗はイルカのコップを手に取った。

「かいとはこれ。おばーちゃんはおまんじゅう」

「よし、じゃあ決まりだな。これ買うからガチャガチャは無しだぞ」

「うん、わかった」

「杏介さん、ガチャガチャのほうが安いよ」

「そうだけど、ガチャガチャよりこっちのほうが実用的だろ?で、紗良さんは決めた?」

「え、私?」

「そう。記念に何か買おう」

「いや、私は……」

「何がほしい?」

そう言われると困ってしまう。
自分が欲しいものなんて考えに及ばなかった。

いや、二年前までならきっと、あれもほしいこれもほしいと物欲があったはずだ。
それがいつからか、海斗のことばかり気にして自分の物欲はどこかへいってしまった。

海斗が喜べばそれでいいと思っていたからだ。

「……何もいらないです」

「そう?」

じゃあ買ってくるねと、海斗を連れてレジに並ぶ杏介の後ろ姿を見送る。
紗良は邪魔にならないようにと一人店外へ出て待った。
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