泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
なんだか変に胸がズキズキするのはなぜなのだろう。
本当に、欲しいものは何もなかった。
だけどやっぱり、何か欲しかった。
そう思うのは、なぜ……?
楽しそうな海斗を見ているだけで嬉しいはずなのに。
自分でもよくわからないモヤッとした気持ちを抱えたままぼんやりと二人を待っていると、海斗と手を繋いだ杏介が戻ってくる。
反対の手には大きな袋。
「はい、紗良さん」
「え、なに?」
「さらねえちゃんにプレゼントだよー」
「えっ?」
杏介はその大きな袋を紗良に差し出した。
「紗良さんぬいぐるみ好きなんでしょう?」
「好き……だけど。えっ?……私に?」
「海斗にばかり買ってあげたんじゃ不公平だよね?……ていうのは建前で、本当は紗良さんにも何か買ってあげたかったっていうか」
「さらねえちゃん、いっつもおにんぎょうさんとねてるもんねー?」
袋を開けてみれば、抱きかかえることができるほどのイルカのぬいぐるみ。
程よい弾力で肌触りも良く、そのまま顔を埋めてしまいたいほど。
「……好みじゃなかった?」
紗良はフルフルと首を横に振る。
体の奥の方から込み上げてくる熱いものは紗良の胸をぎゅっと痺れさせた。
「……嬉しいっ!」
ニコッと笑う紗良を見て、杏介と海斗は顔を見合わせてハイタッチをした。
「やったー!びっくりだいせいこーう」
「さすが海斗、紗良姉ちゃんの好きなものよくわかってるな」
「でしょー。えへへ」
「杏介さん、ありがとう。これ高かったよね?あと海斗のコップも」
「気にしないで。俺が二人にしてあげたくて勝手に買ったんだから。素直にもらってくれると嬉しい」
「うん、うん、……すっごく嬉しい!」
イルカのぬいぐるみを大事そうに抱える紗良の瞳はわずかに揺らぐ。
そんな紗良を見て、杏介の胸も熱くなる。
そして紗良の頭をポンと優しく撫でた。
「喜んでもらえて、俺もすっごく嬉しい」
つい先ほどまで感じていた胸のモヤモヤは、もうどこかにいってしまうほど。
微笑み合えば二人を纏う空気が柔らかく流れ、それだけで幸せが満たされていくような、そんな気がした。