泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
海斗のことと紗良のアルバイトの都合で、夕方には帰路についた。

それが当たり前でそうじゃなくてはいけないと思っていたのに、最近は別れが惜しくてたまらなくなっている。

(今日も楽しかったな……)

いつもそう。
杏介と出かけた後は楽しかった余韻に浸りながら、今日一日を振り返る。

プレゼントしてもらったイルカのぬいぐるみと一緒に布団に入りぎゅううっと抱きしめると、得も言われぬ感情が紗良の中にわき起こった。

ほんのりと鼓動が速くなる。
この気持ちは自分でも薄々気づいている。

(杏介さん……)

杏介と海斗と、三人で出掛けるのはとても楽しい。
だけどもし、これが杏介と二人きりだったらどうなんだろうと考える瞬間がある。

もちろん、海斗のことをないがしろにしているわけではない。
もしも……もしも、の話だ。

水族館で撮った写真を見返せば、柔らかく笑う杏介がたくさん写っていた。
海斗を撮っているつもりだったけれど、どうやら無意識に杏介のことも撮っていたらしい。

(杏介さんと二人で出掛けてみたい……かも)

もし杏介の休みに合わせて休暇が取れたら、デートして貰えるだろうか。

(いやっ、デートっていうか、いやっ、そういうことじゃなくてっ)

自分の思考があらぬ方向に飛んでいってしまいそうな気がして、紗良は一人布団の中で身悶えた。

そんなんじゃない、と思いつつも、紗良の中で大きくなる杏介への気持ちは止められそうになかった。
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