泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
絨毯張りの映画館は特別感を感じさせる。
どこからか甘い匂いも漂っていて、気持ちをわくわくさせた。

「楽しみです。映画なんて学生のとき以来」

「そう言われると俺もしばらく映画館には足を運んでなかったかも。何か買う?」

「じゃあ飲み物だけ」

紗良はメニューを覗く。
よくある定番の飲み物が並んでおり、「オレンジで」と伝えると、杏介が店員に注文してくれる。

「アイスコーヒーとオレンジジュースで……」

「ああっ、ちょっとまってください。やっぱりオレンジじゃなくてコーラでお願いします」

「はい、アイスコーヒーとコーラですね。六百円になります」

紗良がお金を出そうとすると杏介が目配せし、ささっと支払ってしまった。

「いいんですか?」

「いいよ。はい、コーラ」

「ありがとうございます」

「紗良、そろそろ敬語はやめようか。お互いに」

「あ、はい。……じゃなくて、うん?」

「そうそう」

気恥ずかしいような嬉しいようなくすぐったい気持ちになって、紗良はストローに口を付ける。
ゴクリと一口コーラを飲めば、シュワッと炭酸が強烈に鼻を抜けた。

「ん~、炭酸だ!」

「コーラが炭酸って知らなかった?」

「ううん、違うの。久しぶりに飲んだから」

紗良はふふっとはにかんで笑う。
海斗はまだ炭酸が飲めないため、たいていオレンジジュースかリンゴジュースを注文する。
それも一人で飲むには多いため紗良と半分こすることも多い。

(私ったらいつも海斗に合わせてたんだなぁ)

まさか飲み物の注文ひとつでそんなことを実感するとは思わず、紗良は感慨深い気持ちでまた一口コーラを飲んだ。
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