泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
「紗良、まだ時間ある?」

「今日はお迎えの時間十七時だから、まだ大丈夫」

時刻は十三時。
高い太陽からは日差しが燦燦と降り注いでいる。

「じゃあ今度は俺に付き合ってくれる?」

「もちろん」

自然と二人手を繋いで、まるでそれが当たり前かのように杏介の車に乗り込む。
たわいもないおしゃべりをしながら少しドライブをして、きっと三十分くらいは走っていたはずなのにあっという間に目的地に着いた。

時間の流れるスピードが速い。
そう感じているのは紗良だけではなく、杏介もまた同じように思っていた。

小高い丘の舗装された緩やかな階段を上っていくと開けたウッドデッキが広がる。
小さな展望台になっていて、まわりは緑で囲まれており風が吹くたびに木々がサワサワと揺れる。

ウッドデッキの手すりから顔を覗かせれば、公園の花壇に咲く花がよく見えた。

「わあ、綺麗!風が気持ちいい」

「ここ飛行機がすぐ近くを飛ぶんだけど、知ってる?」

「ううん、初めて来た。飛行機?」

空を見上げればちょうど遠くの方に飛行機の影が見える。

「あの飛行機こっち来るの?」

「来るよ。きっと驚くと思う」

しばらく飛行機の行方を追っていると、どんどん姿がはっきりして高度も落ちてくる。

ゴォォォ――

地響きのような爆音が耳を震わせ、同時に紗良の真上を飛行機が通り過ぎていく。
それはもう、手を伸ばせば届くのではないかと思うほどに近い。

「すごい!かっこいい!飛行機の下、初めて見た!」

「すごいよね。すぐそこに空港があるから、低い位置で飛行機が見られるんだって。ここ、休日になると飛行機を見るために結構賑わうらしいよ。今日は平日だから人がいないけど」

「じゃあラッキーだったね。私と杏介さんで貸し切り」

屈託なく笑う紗良は眩しいくらいに輝いていて、杏介はぐっと息をのむ。

(この笑顔が見れるなら、本望だ――)

紗良の笑顔は杏介の心をいとも簡単に絡め取る。

紗良に癒やしを求めた。
見ているだけでいいと思った。

紗良の事情を知らずにラーメン店に通っていた日々が今となっては何だか懐かしい気さえする。

紗良が一児の母だろうが、同僚からよく考えろと忠告されようが、そんな頭の片隅で燻っていたことは一瞬でもうどうでもよくなった。
誰が何と言おうと、この気持ちは止められそうにないからだ。
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