泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~

「紗良、今日だけじゃなくて、これからも二人で出掛けないか?」

「え?」

「紗良、好きだよ」

飛行機が通り過ぎた後の気流風が二人の間を抜けていく。
さっきあんなに近くに飛んでいた飛行機はあっという間に遠くへ行き、展望台には静寂が戻った。

紗良はぎゅっとシャツの裾を握る。
杏介に「好き」だと言われて嬉しくないわけがない。
だってとっくに紗良も杏介のことを好きになっていたのだから。

「……わ、わたし」

紗良は考えあぐねるように杏介から視線を外す。
だがそれも定まらず、曖昧にさまよった後、また杏介の元へ行き着いた。

本当はすぐにでも頷きたいしその逞しい胸に飛び込みたい。

そう思うのに、杏介への気持ちは喉元で引っかかる。まるで魚の骨が刺さっているかのようにチクチクと痛い。

「……海斗がいるから……」

ようやく出てきた言葉は自分が思った以上に重くて残酷だった。
自分自身の心までもえぐり取られるような、そんな感覚に顔をしかめる。

けれど杏介は、ふっと微笑んで紗良の頭をぽんぽんと優しく撫でる。

「……わかってるよ。それでも俺は紗良が好きだよ。海斗のことももちろん好きだけど。……今一瞬だけ海斗のことを忘れて、紗良の本当の気持ちを聞かせてくれないか?」

「……私も、好き。今、一瞬だけ海斗のことを忘れた私は、杏介さんのことが好きです。だけど、海斗を思い出した今は、杏介さんのことは好きだけどお付き合いはできないです」

「そっか。でもよかった。俺のこと好きになってもらえて」

「……杏介さんは、優しくてかっこよくて、……大好き」

「……紗良」

引き寄せられたのか自ら近寄ったのか。
唇から触れ合う体温は、甘く優しくあたたかだった。
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