泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
ほっとしている紗良と同様に、杏介もまた別の意味でほっとしていた。

紗良に告白したのは『覚悟』を持ってのこと。
紗良を好きになったら必然的に海斗もついてくる。
海斗が邪魔だとか嫌だとか、当然そんな気持ちは持ち合わせてはいないが、いくら母親と一緒に育てているとはいえ子供がいたら普通のお付き合いができないのは想像できる。

昼間は仕事を調整すれば会えるかもしれないけれど、夕方にはお迎えが待っている。

休日には海斗がいる。
泊りで出掛けることも、できないか、もしくは子供付き。

それらをひっくるめて、杏介は『覚悟』を決めたつもりだった。

それだけ紗良のことが好きだと思ったからだ。

けれど紗良の意志は固い。
杏介が思っているよりももっと意志が強くて、海斗への思いが深くて。

そこへ足を踏み入れるにはハードルが高すぎた。

(俺にはまだ紗良への愛情も海斗への愛情も、そして覚悟すらも足りないのかもしれないな)

子持ちと付き合うというのは、前途多難なのかもしれない。

杏介にとっても紗良にとっても。

それぞれの想いがあり、決意があり。
そしてその先に海斗がいて。

「はあ、難しいな……」

だから諦めるという恋ではないけれど。

まだ紗良を好きになったばかりなのだ。
紗良も杏介のことを好きだと言ってくれている。
これからゆっくりと距離を詰めていくのも悪くないかもしれない。

焦ることはない。
紗良も杏介も、初めての恋だから。

だからゆっくりと歩んでいく。
二人の目指す未来はまだ見えなくとも。

向いている方向は一緒なのだから。
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