泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~


休みボケもそこそこに、仕事も保育園も始まり慌ただしい日々が戻ってきた。
朝の渋滞を抜けダッシュで出勤するのもいつも通りだ。

「紗良ちゃん、あけおめー」

「依美ちゃん、今年もよろしくね」

「ねえねえ、去年の忘年会でさ、彼氏できちゃった」

「えっ!すごい、おめでとう」

依美は秋ごろ、彼氏が浮気しているからもう別れると宣言していた。
そしてもっといい男をゲットすると意気込んでもいた。
それがこんなにも早く彼氏ができるとは、驚きと共に積極的な依美らしいなと紗良は思った。

「たまたま別部署の人たちも同じお店でね、合同忘年会になったわけ。で、色々話してたら彼と意気投合してさ~」

「すごい、そんな偶然あるんだね」

「ね、びっくりだよね。運命感じちゃうよ」

「うんうん、本当にそうだよね」

依美はとても楽しそうで休み前に会った時より生き生きとしている。
彼氏と別れると言っていた依美は少し落ち込んでいるように見えていたので、短期間での依美の行動力には脱帽だ。

「ねえ、紗良ちゃんはプールの先生とどうなったの?」

ドキリと胸がざわめく。

どう、かと言われれば、告白されて断った事実がある。
けれどお正月には家に呼んで一緒にお節を食べたというなんとも不思議な関係が続いている。
それを表現するには難しく、ぐるりと考えた挙句、紗良はいたって平静に答えた。

「……どうもなってないけど?」

「そうなんだ?じゃあさ、 誰か紹介してあげようか?」

「え?」

「彼氏の部署男だらけらしくって、彼女募集中の人いるみたいよ。飲みに行くだけでも行ってみたらどう?楽しいよ」

「いやいや、私には海斗がいるから」

「またすぐそうやって子供を出す。最近は子持ちだって敬遠されないってば」

「別にいいんだって。彼氏欲しいだなんて思ってないし」

「事情があって育ててるのはわかるけどさ、何か自己犠牲に酔ってない?そんなことじゃ子どもが大きくなって手が離れたときに何も残らないよ。だって紗良ちゃんまだ若いんだし」

「……海斗が無事に育ってくれたらそれで十分だよ」

笑ってやり過ごすも、急に得も知れぬ不安に襲われた。

(……それで十分だよね?)

ドクンと心臓が変な音を立てる。
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