泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
お互いのこと
四月、海斗は年長へ進級し、プール教室もクラス替えになった。
顔付けや潜ることができるようになった海斗はひとつ上のクラスになり、担当の先生も新しくなった。
海斗は担当の先生が杏介でなくなり残念そうにしていたが、子供の順応性とは高いものですぐに馴染んで楽しそうにしている。
そのことについて全く問題はないというのに、なぜだか紗良の方が残念な気持ちになっている。
心のどこかで海斗は杏介じゃないとだめだと思っていたのだろうか?
それとも海斗をダシに杏介に近づこうと思っていたのだろうか?
いずれにせよ、妙な喪失感に襲われている。
きっとこれは四月だから。
年度がかわっていろいろなことに忙しいから。
だから心が弱くなっているのだと、紗良は無理やり結論づけた。
そうやって慌ただしく四月が過ぎていき、あっという間にゴールデンウィークになった。
休みの日は杏介に会いたいなと思っていた紗良だが、どうやら短期プール教室があるらしく杏介は出勤の日々の様子。
「一日くらいどこか行こうか?」
「でも杏介さんはその日しかお休みないんでしょう?お出かけしたら疲れちゃうよ」
「紗良と海斗に会えるなら疲れも吹き飛ぶよ」
「海斗、ますますわんぱくになってるから相手するの大変だよ」
「だったら毎日海斗の相手してる紗良こそ、少しはゆっくりしないと。というわけで、お出かけ決定な」
そうやって少々強引に予定が決まっていく。
甘やかされている気がして、嬉しい気持ちが大きく膨らんでいくようだ。
(海斗よりも喜んでいるんじゃないだろうか、私)
張り切って朝からおにぎりを握り、卵焼きとタコさんウインナーとほうれん草のおひたしをこしらえる。デザートにはパイナップルに可愛いピックを刺して。それらをしっかりとリュックに詰め込んで。
「あらあら、朝から張り切ってるわねぇ」
紗良の張り切り具合に母がニヤニヤと覗きに来る。
「か、海斗がタコさんウインナー好きだから」
「はいはい、杏介くん喜んでくれるといいわね」
「うっ……うん」
なにもかもお見通しのようで妙に気恥ずかしい。
言い訳をすればしただけ、自分の首を絞めるようだ。