泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
お互いのことをよく知らない。
表面上はよくわかっていても、その生い立ちや家庭環境までは踏み込んでいない。
(杏介さんのこと、もっと知りたいかも……)
そう思うのと同時に、紗良は自分のことも知ってもらいたいと思った。
好きだから知りたい、好きだから知ってもらいたい。
付き合うことはできないと断った後もこうして一緒にお出かけして、まるで付き合っているのと変わらないような関係が続いていることに自分自身喜びを覚えている、この矛盾した生活。
自分のことを伝えたら杏介は呆れるだろうか。
この関係は崩れるだろうか。
だったとしても、今、伝えたい気がした。
ずっと燻っている、紗良の気持ちを。
紗良は海斗がぐっすり眠っているのを確認してから口を開く。
「あのね、うちの両親は離婚してるの。私は母子家庭だけどお母さんが明るすぎて父親の存在なんて忘れちゃうくらい」
「確かに、紗良のお母さんは底抜けに明るいよな」
「でしょう。だからね、海斗を引き取るときも大丈夫だと思った。私もお母さんみたいにやれるって思ったの。でも実際はすごく大変でお母さんに頼ることも多くて全然できてないけど、でも私なりに頑張ってて……」
「うん、すごいと思うよ。だって最初に出会ったときは海斗の本当の母親だと思ったから」
「そう言ってもらえて嬉しいんだけど。でもね、最近はダメなの……」
紗良は杏介を見る。
運転している杏介の横顔は夕日に照らされてキラキラと眩しく、それでいて頼もしくかっこいい。
(ああ、私ってこんなにも杏介さんのことが好きなんだ……)
自覚すると胸がきゅっと苦しくなる。
伝えるべきなのか、どうなのか迷う。
だが杏介は「何がダメ?」と優しく問うた。