泡沫の恋は儚く揺れる~愛した君がすべてだから~
ゴールデンウィーク明け出勤すると、いつも元気いっぱいの依美が休暇だった。
紗良と依美は昼食もよく一緒に食べる。
だからどちらかが休暇を取るときは事前に伝えておくか、メッセージなどで連絡をすることにしている。
今日は依美からの連絡はないけれど、連休を繋げて長期連休にする社員も多いし、そんな時もあるだろうとさほど気にしていなかった。
だが依美は翌日も休み、さらには翌週になっても出勤してこない。
さすがに気になってメッセージを送ってみるも、まったく返事はなかった。
どうしたのだろうと心配で何度もスマホを確認するが、何度メッセージを送っても返ってくることはなかった。
「石原さん、松田さん、ちょっといいかな?」
主任から声をかけられ、二人面談室に入る。
松田も紗良と同じチームで働く、年配の派遣社員だ。
「岡本さんなんだけど、体調不良でしばらく出勤できそうにないんだ。悪いけど、その間の仕事を分担して欲しい。少し大変になるかとは思うけど……」
紗良と松田は顔を見合わせる。
二人とも残業は無しという契約のため、増える作業量を定時間内にこなせるのか不安が過った。
「岡本さん、大丈夫なんです?私たち残業できないのであまり仕事が増えると捌ききれるかわかりませんけど?」
松田が懸念事項を告げてくれたため、紗良も同意見だと大きく頷く。
「とりあえず二週間お休みになるから、その間だけ頑張ってほしい。もちろん、契約通り定時で帰ってもらってかまわないよ。それに、我々もサポートするから」
「……はい」
としか返事はできなかった。
しょせん紗良は派遣社員。
与えられた仕事を請け負うことが仕事なのだ。
「岡本さん心配ね。石原さん何か事情聞いてないの?」
「はい、私も心配で何度かメッセージを送ったんですけど、返事がないんです」
「そうなの。まあとりあえず分担して頑張りましょうか。復帰したらランチでもおごって貰わなきゃね」
茶目っ気たっぷりに松田が言うので、紗良も「そうですね」と笑った。