俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 丸い頬につぶらな瞳。緩くウェーブのかかったボブヘアがとてもよく似合っている。彼女は日菜子にペコリと頭をさげる。

「篠田南です。よろしくね」

(わぁ、かわいらしい人)

  自分より確実に若く見えるが、彼女は今年で三十歳になるそうだ。日菜子の胸の名札に視線を向けながら彼女は言う。

「氷堂さんの『ひょう』の漢字って、氷のほうなんだ。珍しいし、かっこいい名字だね」

(この話題は……。できれば、実家のことは内緒にしておきたいのに)

 採用時の面接官は、前職場の『氷堂デベロップメント』の話をしたときに「おや?」という目をしたが、なにも聞かずに面接を続けてくれた。
 長く働き続ければ、いつかはバレるかもしれないが……初日から公にしたい事情ではない。また、気を使われ遠巻きにされるのは嫌だった。

 平静を装って、この話題をやり過ごそうとする。

「そうでしょうか? 珍しいというほどでもないかと」
「あぁ、氷堂地所さんとか――」

 その言葉を日菜子はピシャリと遮った。

「篠田さん。雑談より仕事のほうを」
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