俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 拗ねた顔の彼に日菜子は小さく告げる。

「はい。十月十日ほどは無理ですから……そこは理解してください」

 十月十日のワードを聞いた瞬間、善が固まった。口をパクパクさせて日菜子を凝視している。

「え、まさか――」

 日菜子ははにかむような笑みをみせる。

「おなかに善さんの赤ちゃんがいるんです」

 善は一泊置いてから「そういう大事なことを……なんで早く言わないんだ!」と大きな声をあげる。彼らしくもない焦った様子で次々と質問を投げかけてくる。

「日菜子はいつ気がついたんだ? 病院は? 普通に仕事なんかして大丈夫なのか」
「お、落ち着いてください。ちゃんと説明しますから」

 日菜子はまず自分のつわりはかなり軽いほうらしく仕事に支障はないことを伝えた。

「いや、でも……万が一、なにかあったりしたら」

 善の過保護ぶりに思わず笑ってしまう。

「産休に入るまで働いている女性はいっぱいいますよ。私は内勤がメインですし」
「けど、絶対に無理はするな。日菜子とおなかの子になにかあったら、俺はもう生きていけない気がするから」

 まっすぐすぎる愛情がうれしくて、素直にうなずいた。

「わかってます。ちゃんとこの子を一番に考えて生活します」

 その答えに善もようやく安堵してくれたらしい。

「頼んだぞ」
「病院はきちんと行きました。私が善さんと南さんの仲を誤解してしまった、あの日です」

 善は弾かれたように顔をあげる。

「それで電話をくれたのか?」
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