俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 言ってしまってから、ハッとする。また感じの悪い言い方を……そう後悔しても、遅かった。南は困惑したように目を見開いていた。

「すみません。その、少しでも早く仕事に慣れたいと思いまして」

 彼女から視線をそらしつつ、言い訳がましい言葉を絞り出した。

「あ、ごめんね。まずは仕事を覚えたいよね。じゃあ、早速説明するね」

 南はとても有能な女性だった。製図作業はスピーディーで正確だし、教え方もうまい。なにより、あんな態度を取った日菜子に嫌な顔をすることもなく丁寧に指導してくれた。

「どうかな? 前の職場との違いとかある?」
「一般住宅を扱うのは初めてなので……でも、一日も早く戦力になれるよう努力します」
「そんな気負わなくても大丈夫よ~」

 そこで、南は言葉を止め、じっと日菜子を見つめた。

「な、なにか?」
「うん。氷堂さんって本当に美人ね~。一日でいいから顔を取り替えてほしいくらい!」

 日菜子は固まる。女性同士のこういうやり取りがどうも苦手なのだ。正解の対応がわからないから。
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