俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 差し出された手を、日菜子はおずおずと握る。

「中途入社の氷堂日菜子です」

 氷堂の名にどんな反応をされるかと身構えたが、彼はなにも言わなかった。全然勘づいてもいないのか、それとも知っていて口をつぐんでいるのか……鷹揚な彼の態度からは、なにも読み取れない。

(どちらにしても、同僚に知られないで済むなら私にとってはありがたいことだけど)

「採用面接には顔を出せなくて申し訳なかった。ちょうど出張中だったんだ」
「いえ……ルーブデザインに貢献できるよう尽力しますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

 日菜子が深々と頭をさげて言うと、彼はぷっと噴き出すように笑った。

「かわいいけど……真面目すぎ。この仕事は遊び心も大事だし、もっと肩の力抜け」

――真夏の太陽みたいな人、それが彼の第一印象だった。

 有能なだけでなく、人望もあるのだろう。彼を見るみんなの目からそれが伝わる。

(でも、なんでだろう。私は……)
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