俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
***

「ゆうべの女性はどなたですか?」

 日菜子はまっすぐに彼を見つめて問い詰めた。
 柔らかなブラウンの髪、銀縁眼鏡の奥の瞳は髪と同じ優しい色をしている。いつも穏やかな彼の空気が今はピリピリと張りつめていた。

 昨夜、日菜子は家族と一緒にホテルのレストランに出かけていた。お手洗いに行こうと家族と離れたときに偶然、彼――婚約者である柘植(つげ)悠馬(ゆうま)に出くわしたのだ。
 彼は日菜子の知らないかわいらしい雰囲気の女性と腕を組み、エレベーターに乗り込むところだった。
 彼らの向かう先まではわからなかったが、気まずそうな悠馬の表情と勝ち誇ったような女性の笑みを見れば、こういうことに疎い日菜子でもさすがに察した。

 来春、大学を卒業したら五歳年上の彼の妻になる予定だったのだ。だから就職活動もしていない。

(……今後について、はっきりしてもらわないと困る)

 
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