俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました

　そう思って、彼を呼びだした。恵比寿にあるオシャレなカフェバーは彼の行きつけで何度かデートをしたことのある思い出の店だ。
　悠馬はまるで自分のほうが被害者みたいな顔で押し黙っている。

「説明してもらわないと、困ります。悠馬さんとあの女性が恋仲だというのなら、私は自分の身の振り方を考えないといけませんし」

　怒ったり泣いたりしても、なにも解決しない。彼にもなにか言い分があるのかもしれない。まずは冷静に話し合うべきだ、日菜子は自分にそう言い聞かせた。
　だが――。

「そういうところがね」

　疲れたように彼は言葉を吐き出す。クシャクシャと髪をかき混ぜながら、日菜子を見る。

「僕に浮気疑惑があっても悲しそうな顔ひとつしない。なに考えてるのかわからないし、君と一緒にいても気が休まらないんだ」
「そんな……」
「日菜子は僕にこれっぽっちも興味がないでしょう。いくら親の決めた許婚とはいっても、それじゃ寂しいんだよ」

　彼の口から飛び出す言葉の数々に日菜子は純粋に驚いていた。たしかに親の決めた婚約ではあったけれど、自分たちは温かく優しい信頼関係で結ばれているとばかり……そして、日菜子はそれこそが恋だと思っていたのだ。

『僕はのんびりしてるから、日菜子みたいなしっかり者が奥さんになってくれたら安心だな』
『親の決めた許婚が美人でいい子で……俺は幸せ者だよな』

　あの言葉はなんだったのだろう。人はこんなにも上手に嘘がつけるものなのか。ただただ、その事実に驚愕する。