俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
(なにを言えばいいの? 悲しい顔をするのが正解? わからない……)

 気づまりな沈黙が流れたところに、鋭い声が飛んできた。

「それは違うんじゃないか」

 丸テーブルを挟んで向い合わせに座る日菜子たちのすぐ近く、カウンター席に座っていた男が振り返った。

「えっ……お前……」

 悠馬が目を見開く。どうやら彼の知り合いのようだ。男は悠馬に軽く会釈をする。

「久しぶり、柘植。偶然だな……っていっても、この店うちのゼミの行きつけだったもんな」
「いや、まぁ」

(ゼミ? 悠馬さんの学生時代の知り合い?)

 現在二十七歳の悠馬は大手都市銀行で営業マンをしている。彼もスーツ姿なので、悠馬の同級生だろうか。
 男は悠馬をにらみつけ、低い声で言う。

「他人が口出すことじゃないのは承知で言うけどな。そもそも浮気疑惑――じゃないんだろ」

 悠馬は気まずそうに視線を泳がせる。

「お前には関係ない。放っておいてくれ」
「自分が浮気しといて、彼女に寂しい思いをさせられたから……は違うだろ。悪者になる覚悟を決めて本音をぶつけてやれよ」
 
 ズケズケと踏み込んでくる男に悠馬はカッとなる。

「いいかげんにっ」

 そんな彼の言葉を遮って日菜子は言った。
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