俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「なんだよ……見合い写真も身上書も見てないのか?」

 図星をさされ、日菜子はかすかに顔をゆがめる。

『行けばわかる! 変な先入観は持たないほうが絶対にいいから!』

 両親はそう言って、かたくなに相手の名を明かそうとはしなかったのだ。どうせうまくいかないのだし、相手が誰でも関係ない。日菜子自身もそう思っていたので詮索はしなかった。が、それは大間違いだったようだ。

(お父さんたち、相手が大狼社長だから黙ってたのね……)

 縁談相手が日菜子の勤務先の社長であることに、両親が気づかぬはずはない。

「どうせ断るつもりだし、どうでもいい。そんなところか?」

 日菜子の無表情は幼い頃からの筋金入りだが、彼は妙に鋭いところがあって、わずかな変化を読み取られてしまう。職場でも、今もそうだ。
 善はふっと白い歯を見せる。

「俺はお前と違ってきちんと相手の情報はチェックしてきた。氷堂地所のひとり娘、氷堂日菜子、二十五歳。半年前に転職したばかり。転職先は……俺の会社だ」
「わ、私が来ると知っていて、ここに来たんですか?」
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