俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「ダメだ。帰る前に返事をしてくれ」
「――返事って」

 善はいたって真面目な顔だ。日菜子は諦めて、もう一度椅子に座り直す。深呼吸をひとつして彼を見据える。

「社長は本気で、この縁談を受けるつもりなのでしょうか」
「そうだ」

(数日前の『俺になにか話すこと』はこの縁談のことだったのね)

 日菜子は静かな声で続ける。

「氷堂地所の娘と結婚したい。そういうことですよね? もしかして、私を採用してくださったのもそのためですか」

 先ほど彼は『氷堂地所と大狼建設は連携の道を探っているところだ』と言っていた。縁談の話が出たのはいつだったのだろう。最初からこれを見据えての採用だったと疑うのは勘ぐりすぎだろうか。

「それは違う」

 彼はきっぱりと首を横に振った。

「お前の採用は人事に任せていて俺はいっさい関与していない。後日確認した経歴書で氷堂の血縁者かなとは思ったが……それはお前の評価には影響しない」

 善は日菜子の目をまっすぐに見つめる。
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