俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 彼がなにを考えているのかさっぱり理解できない。少なくとも、日菜子のほうは職場の人間と見合いなんてお断りだ。

「別になにもたくらんでないぞ。見合いは俺個人でなく家の都合だ。相手が誰だろうと、すっぽかすわけにもいかないしな」

 ルーブデザインは国内ナンバーワンのゼネコン『大狼建設』の関連会社。善はこの大狼建設の御曹司なのだ。氷堂地所と大狼建設、主戦場は違えど、どちらかといえば競合関係にある企業同士だ。決して仲良しではない。

(転職先はルーブデザインだと伝えたら急に大賛成になったのも謎だったけど……今度は縁談? お父さん、なにを考えているのかしら)

「氷堂はグループに建設会社を持ってるし、うちとはライバルでもあるが……政府もかかわっている海外への大規模インフラ投資計画のために、最近は水面下で連携の道を探っているようだ」

 また日菜子の思考を読んだかのように、善が説明する。

「それは初耳です」

 それきり、しばしの沈黙が流れた。

 衆目を集めることに居心地の悪さを覚える日菜子と違い、彼はどれだけの視線を浴びてもいつも悠然としている。むしろ、注目されればされるほどに輝きを増すタイプの人間だ。

(会社でも、みんなが彼を目で追っているものね)
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