俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 彼はゆっくりと日菜子に歩み寄り、大きな手をポンと頭にのせた。

「役っていうか、日菜子のままでいいんだけどな。ドレスと和装はどっちが好きだ? 可能なかぎり日菜子の希望に沿った式にするから」

 本物の妻に向けるような愛情たっぷりの台詞をさらりと吐く彼にも、すっかり慣れてしまった。

「えっと、私自身の趣味は別に考慮していただかなくても……」

 彼の手が頭から頬におりてくる。くすぐるように触れながら、甘くささやく。

「白無垢なんかも似合いそうだな。けど、ドレスは絶対に見たいし、二回くらいお色直しをするのはどうだ?」
「今はそんなに何度もしないのが主流ではないでしょうか」
「人は人、俺たちは俺たちだろ」

 奥さん扱いが当たり前になりすぎて、時々この結婚生活が有限であることを忘れてしまいそうになる。自分たちは愛し合って結婚した夫婦などではないか……と。

 彼の指先が日菜子の唇を割る。その瞬間、肌がぞくりと粟立った。顔と心臓が熱い。

「ぜ、善さ――」

 情熱を秘めた瞳が近づいてくる。形のよい唇から漏れる吐息が日菜子を惑わせる。が、触れ合ったのは唇ではなく額だった。
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