俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 いつも鷹揚としている彼には珍しく、少し怒ったような顔だ。

「別になにも」

 日菜子がフイと顔を背けると、善は大きなため息をついた。

「ちょっとは素直になってくれたと思ってたんだがな」

(私が気持ちを正直に打ち明けたら、困るのは善さんのくせに!)

「それなら、前から思っていたことをひとつお話ししてもいいですか」
「なんだ?」

 深呼吸をしてから、日菜子はひと息に告げた。

「その……女性関係で私に気を使う必要はありませんから」

 自分でも驚くほど、かわいげのない声が出た。答える彼の声も重い。

「なにが言いたい?」
「私に遠慮せず、好きな女性と過ごしてくださいって意味です。なんなら今夜からでもどうぞ」

 善はイラ立ちを抑えるようにグシャグシャと自身の髪をかき混ぜた。

「お前なぁ……初夜に浮気しに行く新郎がどこにいるんだよ」

 彼は日菜子の腰をグッと抱き寄せると挑発するような笑みを浮かべた。

「俺としては、そういうことは新妻としたいけど?」

「だって善さんは私のことなんて! 誓いのキスすら頬だったし……」

 香水のこと、自分を女性としては見てくれない善、ずっと見ないふりをしてきた思いがぶわりとあふれて、制御できなくなる。日菜子の目に涙がにじんだ。

 素直な気持ちなんて驚くほど単純なものだ。
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