俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「日菜子。いつまで怒ってるんだよ」

 ホテルをチェックアウトしてランチでもしようと青山のイタリアンレストランに入ったものの、日菜子は不機嫌を隠せずにいる。

「だって、黙っていたのは卑怯です。悠馬さんの友人だと知っていたらたとえ契約でも結婚なんかしなかったのに」
「別に友人じゃないよ。ただゼミが一緒だっただけ」

 唇をとがらせている日菜子に彼は言葉を重ねる。

「それに、故意に隠してたわけでもないし。あのとき、お前そうとう酔ってたし完全に忘れてるんだろうなと思ったんだよ」

(あんなにお酒を飲んだのはあの夜が初めてだったし、そもそも私どうやって家に帰ったんだろう。善さんのことは思い出したけど、前後の記憶は変わらずあやふやだわ)

「その~。私、あの夜自分で帰れていましたか?」
「なんだ。そこは思い出してないのか。俺の上着とシャツをダメにして、タクシー代の礼もなかったけど……機嫌を直してくれたらチャラにしてやるよ」

 うまく言いくるめられたような気もするけれど、かなりの迷惑をかけたことは事実のようなので日菜子も彼が黙っていたことは許すしかなくなってしまった。

 テーブルに料理が運ばれてくる。カプレーゼと魚介のオイルパスタ、ジャガイモとローズマリーのピッツァ。ドリンクはグラスのビールだ。

「はい、仲直りの乾杯」

 善に促されてグラスを合わせる。今日まで有給休暇なので、ランチからお酒を飲むという贅沢を満喫できる。料理はどれもおいしかった。昨日の結婚式はとにかく忙しく食事も満足に取れなかったので、ついつい食べすぎてしまいそうだ。
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