俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 熱い抱擁なんてなかったかのように、オンモードに戻って彼は部屋を出ていく。その背中を見つめて日菜子は細く息を吐く。

(善さんはどういうつもりなんだろう。香水の彼女は本命じゃないの? 私との結婚はいつか終わりにするつもりなんだよね?)

 彼をずるいと思ってしまう自分もいるけれど、本当にダメなのは弱い自分だ。

(善さんは嘘をつかない人だ。聞けば、きっと本心を教えてくれる。でも、それをするのは怖い……)

 もう少しだけ甘い結婚生活に溺れていたい。そんならしくもないことを願ってしまうほど、彼を好きになってしまった。

 翌日は初夏らしい爽やかな陽気で絶好のデート日和だった。

 日菜子は白いコットンレースのワンピースを着て、いつもはおろしてる髪をアップヘアにまとめた。

 善もネイビーのサマーニットにベージュのパンツというカジュアルなファッションだ。

「なんか雰囲気違うなと思ったら、髪型か」
「へ、変でしょうか?」

 暑くなりそうだったからまとめてみたのだけれど、善はおろしたスタイルが好きだったろうか。

(男性の目を気にして服や髪型を考えるなんて、以前の私だったら考えられなかった)

 けれど、自分のそんな変化も嫌ではない。

「日菜子は首が綺麗だから、そういうのも似合うよ」
「……ありがとうございます」

 はにかむような笑みを浮かべた日菜子の手を取り、善は歩き出す。
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