俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「そんなこと言って、絶対にモテたくせに」

 日菜子が唇をとがらせると、彼はニヤリとしてみせる。

「バレたか」

 球場内は活気に満ちていて、あまり野球に詳しくない日菜子でもワクワクした。

 善が購入したチケットは内野席と呼ぶらしく、ウォームアップをしている選手たちがすぐ近くで見える。

「外野席は観戦初心者には向かないからな」

 ふたりは並んで座って、グラウンドを眺める。

「私、ルールをあまり知らないのですが、ちゃんと応援できるでしょうか?」
「ストライクとかスリーアウトは知ってる?」
「さすがに、そのくらいは知ってますよ」

 日菜子がむくれると、善は楽しそうに笑う。

「じゃ十分だ。そもそも野球観戦の楽しみの半分は昼間から外でビール飲んだり、飯食ったりすることだし」

 善は車だから飲めないので、日菜子もアルコールは遠慮することにした。代わりに球場名物の食べものをたくさん頼んだ。

「これ、かわいいしおいしいですね」

 球団キャラクターの形をしたカステラはなかにたっぷりのカスタードクリームが詰まっている。

「からあげもうまいぞ」

 いい色に焦げ目のついたからあげを口に放り込みながら善は言う。どれも目新しい料理ではないけれど、青空のもとで食べると数段はおいしく感じる。

(それに……善さんと一緒だから)

 好きな人と一緒の食事は特別。善に出会うまでは知らなかったことだ。
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